排日移民法 wikipedia|無料辞書
◆ 概要
この法律の内容を簡単に言えば、アメリカへの移住を希望する各国の移民希望者に関して国別の受入数制限を定める内容であったが、日本人に関しては移民入国が全面的に不可能となる規定をもっていた(参照)。
なお、正確に言えば「
排日移民法」という名前の独立した法律があるわけではなく、既存の移民・
帰化法に第13条C項(移民制限規定)を修正・追加するために制定された「移民法の一部改正法」のことを指す。「排日移民法」という呼称はその内容に着目して主に日本国内で用いられる俗称である。運用の実態はともかく、移民制限規定そのものは日本人のみを対象としていない。その点より、この俗称は不適切であるとする意見もある。
◆ 前史
◇ アジア系移民の歴史
アメリカにおけるアジア系移民の流入は
1848年の
ゴールドラッシュを嚆矢とする。多くの中国系肉体労働者が
カリフォルニア州を中心に鉱山労働や鉄道建設に従事した。白人貧困労働者との対立・抗争は1870年代に早くも記録がある。
一方で
1870年制定のアメリカ連邦移民・帰化法は「自由なる白人およびアフリカ人ならびにその子孫たる外国人」が帰化可能であるとしていた。ここでいう「自由なる白人 (free white)」が指すものは当初は明確ではなかったものの、判例の積み重ねなどでそれは「コーカサス人種 (Caucasian)」であるとされ、また中国系に関しては
1882年のいわゆる中国人排斥法で明示的に移民が禁止されることになった(当初10年間の時限措置だったが後に延長がなされた)。
◇ 日本人移民への排斥活動とその対応
日本人の場合、
ハワイへの移民は
明治時代初頭からみられ、やがて米大陸本土への移民も盛んとなる。日本から直接渡航する場合もあったが、多くの者は入国しやすくまた日系人コミュニティーがすでに存在していたハワイ諸島(あるいは
カナダ・
メキシコ)をベースとして、ハワイ併合などにより機を見ては西海岸各都市に渡航していたようである。移民した日系人たちは勤勉で粘り強く仕事をこなし、ある程度の成功を掴む者もあらわれた。しかし彼らは一般的に「日系人だけで閉鎖的コミュニティーを形成し地域に溶け込まない」、「稼いだ金は日本の家族に送金してしまう」などとアメリカ人からは見られていた。また、現実にアメリカ市民権の取得には熱心ではない人が多く、合衆国への忠誠を誓わないなど、排斥される理由はあった。
それでも、日本人はアジア諸民族の中で唯一、連邦移民・帰化法による移民全面停止を蒙らなかった民族であった。これは日本が同地域で当時唯一、欧米諸国と対等の外交関係を構築しうる先進国であり、アメリカ連邦政府もそういった日本の体面維持に協力的であったことによる。しかし連邦政府はその管掌である移民・帰化のコントロールは可能でも、州以下レベルで行われる諸規制に対しては限定的な影響力しか行使できなかった。
こうした連邦レベル以下での排斥行動が典型的に現れたのが
1906年、
サンフランシスコ市の日本人学童隔離問題であった。同年の大地震で多くの校舎が損傷を受け、学校が過密化していることを口実に、市当局は公立学校に通学する日本人学童(総数わずか100人程度)に、東洋人学校への転校を命じたのである。この隔離命令は
セオドア・ルーズベルト大統領の異例とも言える干渉により翌
1907年撤回されたが、その交換条件としてハワイ経由での米本土移民は禁止されるに至った。
この背景としては、
日露戦争に伴ってアメリカが外債の消化や平和交渉など日本を影から支援したにも関わらず、日本が
門戸開放政策を行わなかったことへの不満もあげられる。
◇ 日米紳士協定とその後
日本政府もここへきて危機感をもつ。為政者にとって在米日本人の問題は、すでに植民地経営が開始されていた
台湾、
朝鮮、
日露戦争により進出の基盤を得た
満州ほどの重要性はなかったが、大国としての矜持から、他のアジア系民族と同列に連邦移民・帰化法規を適用されることは避けたいと認識されていた。こうして
1908年、
林董外務大臣とオブライエン駐日大使との間で一連の「日米紳士協定」が締結され、米国への移民は日本政府によって自主的制限がされることとなった。この協定により
旅券発行が停止されたのは主として労働にのみ従事する渡航者であり、引き続き渡航が可能だったのは一般観光客、学生および米国既在留者の家族であった。この紳士協定による自主規制の結果として以後10年ほど日本人移民の純増数(新規渡米者-帰国者)はほぼ横ばいに転じる。
紳士協定の「米国既在留者の家族は渡航可能」という抜け道を活用する形でこの頃盛んとなったのが「写真結婚」による日本人女性の渡米である。米国既在留者は男性独身者比率が高く、若い女性の「需要」は高かった。そこで彼らの出身地の親戚や縁故との間で写真や手紙だけを取り交わして縁談を成立させ、花嫁が旅券発給をうけて入国したわけであるが、見合結婚の習慣のないアメリカ人にとってこの形態は奇異であり、カリフォルニア州を中心として非道徳的として攻撃された。背景には、独身日系人男性が妻帯しやがて子供も生まれることで(出生児は自動的に米国
市民権を得る)日系人コミュニティーがより一層発展定着することへの危機感があったことが考えられる。結局、写真結婚による渡米は日本政府により
1920年禁止される。
一方「単純労働者から脱却し定着を図る日系人」への警戒感は、その土地利用への制限となって具現化する。
1913年カリフォルニア州ではいわゆる
外国人土地法が成立、移民・帰化法でいうところの「帰化不能外国人」の土地所有が禁止された。法人組織を通じて土地を購入する、あるいは米国で米国で誕生した自分の子供(前述の如く米国市民権を得ている)に土地を所有させ、自らはその後見人となり更に子供から土地を賃借する、など様々の脱法的土地利用方法が駆使されたが、
1921年の土地法改正により、これらの法的な抜け道はすべて否定されるに至った。
なお、米国全土でみると移民排外主義は白人中のいわゆる
WASPを中心とした層に支持者が多かったが、西海岸諸州においては、東部から中西部ではむしろ被差別の対象であった南欧・東欧出身者(特に
イタリア系貧困労働者)が排日運動において積極的役割を果たしたことが特徴的であった。
さまざまな圧迫の中で、
1920年には米国全土で約12万人、カリフォルニア州で7万人(州総人口の2%)の日系人が生活していた。
◆ 1924年排日移民法
以上のように、米国における日本人(日系人)の移民活動は紳士協定に基づいた日本の自主規制と州レベルでの排斥活動の間で微妙なバランスを保ちつつ進行していたが、
1924年にはいわゆる排日移民法が米国連邦議会で審議され成立することで大転換を迎える。
◇ 法案の内容
先立つこと
1921年、米国連邦議会は俗に移民割当法 (Quota Immigration Act) と称される法案を成立させていた。同法では、
1910年国勢調査における各国別生まれの居住者数を算出、以後の移民はその割合に比例した数でのみ認められるとしていた。しかし、1910年という基準年次が南欧・東欧系に有利(比率が高い)点で不満が高まり、基準年次を南欧・東欧系移民が未だ少数だった
1890年に後退させる改正案が急浮上した。
1924年の移民・帰化法改正はこのような背景でまず下院で提起され、そこには排日といった要素はもともと含まれていなかった。仮に1890年基準年次をとった場合日本の移民割当数は年間146人となるはずであった。
ところが反東洋系色の強いカリフォルニア州選出下院議員の手によって「帰化不能外国人の移民全面禁止」を定める第13条C項が追加される。「帰化不能外国人種」でありながらこの当時移民を行っていたのは大部分日本人だったため、この条項が日本人をターゲットにするものであるのは疑いようもなかった。
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